越えられない壁:質量保存の法則

EM菌のネタに、こんなにたくさんブクマが付くなんて意外だったなぁ。

まあ、排水処理業界の人間にとっては、「EM菌で水質浄化」なんてのは、けっこう馴染みのあるネタで、もう結論は出ているので、今更、議論なんて始まりっこないし、議論するだけ無駄なんですが、肝心のEM教の人は、行政や学校を利用して科学リテラシーの弱い人たちを狙ってゲリラ的な布教活動をするもんですから、困ったものです。

私は、EM菌の全てを否定しているのではなくて、「水質浄化には効果がありません」と言っているだけなのですが、EMに不可能はないと信じる人は、EMを全否定されたように感じてしまうんでしょうかね。
健康に良いヨーグルトや納豆も、川に投げ入れたら汚濁物質ですよ。と言っているだけなんですがねぇ・・・



微生物の中には、極限環境微生物とか呼ばれる、熱湯や強酸・強アルカリ、超高圧といった極限の環境でも生存できる微生物や、ある特定の金属だけを吸収する、特殊な能力を持った微生物がいますが、そんな、スーパーな微生物でも、物質を消滅させたりすることはできないんです。
当然、EM菌も物質を消滅させたりすることはできません。

微生物で川(池)の汚濁物質を浄化すると言ったときは、基本的に、酸素のある環境で、汚濁物質である有機物が分解され最終的に二酸化炭素は水にまで変換され、水中の有機物の濃度が低下することを言いますが、決して、物質を消滅さているのではないのです。
水の浄化とは、水中にある物質を消滅させることではなく、別の形態に変換して別の場所に移動することなのです。


さて、ミジンコ浄化法というのがあります。
富栄養化によって植物プランクトンが増殖した池に、植物プランクトンをたべるミジンコを増やして水を浄化するというものです。
けっこう簡単に実験できるので、水槽とか金魚鉢が余っている人はやってみると良いです。



↓こちらは、以前私が実験したときの様子です。

金魚を飼っていた水槽に藻類が増殖して青く濁っていたので、ミジンコ浄化法を実験してみました。<注:水槽にミジンコ入れると金魚に全部食べられてしまうので、金魚は別の水槽に移しました>
(1)水槽にミジンコを入れて5日目

卵を持った丸くて大きい(1.5mm)ミジンコが増えている。


(2)水槽にミジンコを入れて1週間目

小さい(0.5mm)子ミジンコが大発生している。水の透明度が急速に良くなっている。


(3)水槽にミジンコを入れて8日目

昨日よりもさらに透明度が良くなっている。


(4)10日目

水の透明度に変化はない。手前の白いものは、親ミジンコの死骸。
ミジンコが水槽内の藻を食べ尽くしてしまい餓死してしまった。


○水槽内のミジンコ(オカメミジンコ)




この水槽の水はこうして浄化されたわけのですが、この水槽に沈んでいるミジンコの死骸も含めた、水槽全体に存在する物質は、以前と比べて、見た目ほどには減ってはいないのです。とくに窒素やリンなどの栄養塩類は、まったく減ってはいないのです。
このままミジンコの死骸を放置しますと、細菌類によってミジンコの体を構成していた有機物が分解されて、窒素やリンが水中に放出されると、また、それを元に植物プランクトンが増殖します。
ですから、水槽の水が浄化された状態を維持するためには、水槽の底に沈んでいるミジンコを除去する必要があるのです。


このように、汚濁した水が浄化されたときには、ミジンコに相当する物質が必ず存在します。これを、水処理業界で汚泥ととか言ってます。下水処理上では、この汚泥が、たくさん発生しています。
いろいろな浄化法が提案されながら、そのほとんどが失敗するのは、この汚泥の処理が難しいからです。

「EM菌による水の浄化」が、いかがわしいのは、この汚泥の処理の問題を無視しているからです。