毎年1000人に1人が死ぬ林業

森林の崩壊―国土をめぐる負の連鎖 (新潮新書)

読んだ

日本の林業の現状を上流(木材生産)と下流(住宅建築)の現場からリポートする。

本の森林面積、木の蓄積量は過去最高であるが、その木を活かすこなく死蔵させている。
花粉症のせいで何かと肩身の狭い杉であるが、そもそもは、将来(つまり今)の需要に応えるために植林されたものである。問題は、植林した後の手入れや、生産された木材を活かすための、林業の産業化について効果のある施策が無かったことである。




著者の白井さんは、この本の最初で、一般にはほとんど知られることのない林業の衝撃的な事実を報告する。
現在の、林業従事者は、およそ5万人なのだが、年間の労働災害が2千数百件あり、約50人の人が死亡している。
1000人に1人なのだ! 
これは、中国の炭坑並であって、現代日本にあって、きわめて異常なことである。
1人の死亡の背景にはその数倍の怪我があることを考えれれば、もはや産業として存続することが許されるのかどうかという水準だ。
そんな危険な仕事にもかかわらず給与水準は非常に低い

こういう現実を知らせることなく、若者を林業に放り込もうというのは、まさに棄民だ。
将来ある若者を失っては国家の損失であるから、農林水産省の役人を農林業の現場に「天下り」させればいいのだ。もちろん報酬も現場の水準が上限。


林業とまとめて言われる事が多いのだが、林業と農業はまるっきり違う。
農業は農地の所有者が耕作するのが基本であるが、林業は、林野の所有者と現場で作業するする人が違うのが普通であり、いわば、小作みたいなものなのだ。


この本では、現場の実情を無視した行政の規制や複雑で使い勝手の悪い補助金制度のもんだい、不在地主の問題、木の長所を生かせない建築基準法などの問題も指摘しており、日本の林業の惨状がよく分かる。

日本版グリーンニューディールなんて言う人もいるようだが、この本を読んで、日本の林業の惨状を知ってしまったら、脳天気にグリーン・ニューディールなんて言えなくなる。

林業再生の道は、非常に険しく、遙か遠い・・・。



 
最後に、もう一度。
1000人に1人が死ぬ産業は異常。
さらに、もう一度
1000人に1人が死ぬ産業は異常。
大事なので二回言いました。