トイレは海への入り口

土は魔法使いじゃないよ
↑この話、私たちには常識的な話で、とくに面白い話でもないと思っていたので、たくさんブクマがついて意外でした。

で、はてブのコメントに、ちょっとコメントしておきます。
虹の輪くぐり - 土は魔法使いじゃないよ

partygirl 完璧に誤解してました。家庭排水が赤潮の原因になったりはしないんでしょうか?あと、綺麗な水を流すのが良くないというのは意外すぎる

とりあずは、下水道が整備されていて下水道に繋がっているという前提で話をしています。
下水道が整備されていない地域や下水道に未接続の家庭では、やっぱり、きるだけ汚水を流さないように配慮する必要があります。


工場排水は、それなりに法律が整備され規制されているために、かなり改善されていて、今では、家庭排水が水質汚濁の一番の原因となっていて、赤潮の原因にもなっていると言われています。

下水道が整備されているのに、なぜ? と不思議に思うでしょうが、下水道が整備されることと、各家庭が100%下水道に接続されることとは別で、下水道が整備されている都会でも、まだ汲み取り便所がけっこう残っているのです。汲み取り便所では、台所やお風呂の排水が垂れ流しになって、汚濁成分が川に流れ込んでしまいます。
また、道ばたや水路などに捨てられた汚物(カップラーメンの残りとかジュースとか小便とか、あとゲロとかその他諸々・・・)が、雨に洗われて川に流れ込んだりもします。


赤潮の原因となる物質は、主に窒素やリンです。これは農業で使われる肥料の主要成分です。家庭排水にはこの肥料の成分である、窒素やリンがたくさん含まれています。
現在の下水道システムでは、窒素やリンを完全に除去することができません。下水処理場で浄化された水の中にも、浄化前よりはだいぶ減ってはいるのですが、窒素やリンがまだたくさん含まれています。
そのため、下水処理場で浄化された水に含まれる肥料分は、下流の海や湖に赤潮を発生させる原因にもなっています。

技術的には、窒素やリンの除去は可能で、外国では下水から飲み水を作っているところもあるくらいです。でも、はやり、コストがバカ高くなるため、その技術の採用はごく一部にとどまっています。

で、ここからが問題です。
その窒素やリンは、オシッコやウンコにとくに多く含まれていて、家庭排水に含まれる窒素・リンのうち7・8割をを占めています*1
だからといって、オシッコやウンコ、我慢できないし、トイレ以外ではできませんよね・・・。

リンは、米のとぎ汁にもたくさん含まれていますから、米のとぎ汁は下水に流さない方が良いのですが、野菜作りを楽しめるだけの庭がある一戸建てなら良いですが、アパートやマンションでは無理ですから、やっぱり、下水道に流すしかありません。

そういうわけで、下水道が整備された都会の住人が、水環境保全のために、個人でできることなんて、ごく限られています(しかも効果がほとんどない)。
なにかモヤモヤして腑に落ちないかもしれませんが、都会に住むってことはそういうことなのでしょうがないです。


あと、「綺麗な水を流すのが良くない」というのが解りにくいと思うので、ちょっと説明しておきます。
下水処理場では、微生物の働きで汚水を浄化しています。
ここで、微生物を「刑事」、汚水中の汚濁物質を「泥棒」として、刑事と泥棒の鬼ごっこモデルを考えてみます。
限定された空間での制限時間(時効)付き鬼ごっこモデルです。
ここで、綺麗な水を流すと言うことは、刑事と泥棒の数は同じなのに、鬼ごっこする空間が広くなることを意味します。
制限時間が同じだとすると、空間が広くなる前では全ての泥棒が捕まっていたのものが、鬼ごっこ空間が広くなると逃げ切ってしまう泥棒が現れるとうことです。
さらに、たくさんの綺麗な水を流すということは時効期間も短くなることを意味しますから、それだけ、逃げ切ってしまう泥棒が多くなってしまうのです。

というわけで、ひとまずこのへんで。

ディスポーザについては、もう少し勉強してから、まとめてみたいと思います。

*1:このことから、「下水道から屎尿を分離して処理すべきだ。」という考え方も出てきます